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山形地方裁判所米沢支部 昭和55年(ワ)87号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

当事者の主張は、次のとおり。

「一 請求原因

1 原告の確定申告による昭和五四年分の所得税額は金二四万〇二〇〇円であつた。

2 原告は、右税額のうち、金二二万七二三〇円を納付し、残金一万二九七〇円を支払わないでいたところ、長井税務署長は、右金額を滞納国税として、昭和五五年六月二日、原告の左記預金を右同額差押えたうえ、右滞納国税分に充当した。

銀行名 株式会社山形銀行小国支店

口座及び預金の種類 総合口座普通預金

口座番号 〇二一三四九七

金額 金一万二九七〇円

3 しかしながら、前項記載の長井税務署長がなした原告の預金債権の差押え及び滞納国税への充当は、以下に述べるとおり、日本国憲法(以下「憲法」という。)九条、一九条に違反して無効であるから、被告は、法律上の原因なくして金一万二九七〇円を不当に利得したものである。すなわち、

(一) 憲法は、九条一項において、戦争を放棄し、同二項において、一切の戦力を保持しない旨規定している。それにもかかわらず被告は、右憲法に違反し、陸海空その他の戦力(自衛隊)を保持し、そのために要する軍事費を国民から徴収した税金によつて賄つているが、被告が軍事費として国民から徴収した税金を消滅することも、国民から軍事費に使用することになる税金を徴収することも、憲法九条に違反するといわなければならない。

(二) しかして、昭和五四年度の国家予算における軍事費の占める割合は5.4パーセントであつたところ、原告は、前記確定申告をした税額のうち、軍事費に使用されることになる右5.4パーセントに当る金一万二九七〇円について、被告の憲法違反行為に加担するわけにいかないので、納入しなかつたものである。しかるに、長井税務署長は、前記のとおり、右金額につき、原告の預金債権を差押えたうえ、滞納国税に充当した。

(三) また、原告が軍事費相当分の税金を納入すれば、原告としても憲法に違反し、かつ、日本国の滅亡を助長することであり、原告の愛国心が許さないものであるところ、長井税務署長は、前記のとおり、強制的にこれを徴収したものであり、右行為は、国民の良心の自由を保障した憲法一九条にも違反するものである。

(四) よつて、被告は、法律上の原因なくして、金一万二九七〇円を不当に利得したものである。

4 長井税務署長は、自衛隊が憲法違反でないことのなんらの理由を示すことなく前記のとおり差押え及び充当をなし、原告の返還請求に応じないのであるが、そうであるならば、公正な裁判をするためにも、自衛隊すなわち軍備が憲法違反でないことの明確な理由を憲法違反を強制される原告に明示すべきである。

5 よつて、原告は被告に対し、第一次的に不当利得返還請求権に基づき、金一万二九七〇円の支払を求め、第二次的に、右支払を受けられない場合は、原告が納得するよう軍備が憲法違反でないことを証明することを求める。

二 被告の答弁

1 本案前の主張

請求の趣旨2記載の請求は、以下の理由により不適法として却下されるべきものである。すなわち、

(一) 一般に司法権の内容として裁判所が審判しうる対象は裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」に限られるところ、この「法律上の争訟」の意義については、「法令を適用することによつて解決しうべき権利義務に関する当事者間の紛争をいう。」(最高裁昭和二九年二月一一日第一小法廷判決・民集八巻二号四一九頁)ものとされている。

(二) ところで、本件における原告の請求の趣旨2記載の請求は、法令を適用することによつて解決しうる具体的な権利義務に関する紛争とはいえず事件性を備えた紛争とはいえない。

(三) よつて、原告の請求の趣旨2記載の請求は不適法なものであつて、却下されるべきである。

2 請求原因に対する認否

(一) 請求原因1、2の各事実は認める。

(二) 同3ないし5は争う。

3 被告の主張

(一) 原告は、昭和五五年三月五日、昭和五四年分の所得税の確定申告書(乙第一号証の一)を長井税務署長へ提出した。

ところが、原告は、申告納税額金二三万九二〇〇円のうち金二二万六二三〇円を同月一二日に納付したが、その残額金一万二九七〇円については法定納期限である同月一五日までに納付しなかつた。

そこで長井税務署長は、同年四月四日、国税通則法三七条一項により原告に対し、督促状を発付したが、督促状を発した日から起算して一〇日間を経過した日(同月一四日)までに未納国税金一万二九七〇円が納付されなかつたため、同年六月二日、国税徴収法六二条により請求原因2記載の預金債権を差押え、同日、同法六七条により右債権を取立て、同月五日、同法一二八条、一二九条一項により配当手続をし、同条六項により未納国税金一万二九七〇円に充当した。

以上のとおり、長井税務署長の行つた右各処分は、国税通則法及び国税徴収法の各規定に照らし、いずれも適法なものである。

(二) 国費支出行為が違憲又は違法であつたとしても、それ故に租税の課税、徴収が違憲又は違法となるものではない。すなわち、

(1) 国民の納税義務は法律の定めるところによつて発生するものであり(憲法三〇条)、租税実体法の定める課税要件を充足する事実の発生により法律上当然に租税債権者たる国は租税を徴収する権利を取得し、納税者はこれに応じて租税を納付する義務を負担することになる。

(2) 他方、国費の支出は、国会で議決された歳出予算に基づいて執行されるものであり(憲法八三条、八五条、八六条)、予算の基礎となる国の歳入は、租税が租税法によつて徴収、収納されるように、法令に基づいて徴収又は収納されるのであつて、歳入予算によつて国の徴収権又は収納権が生ずるものではない。すなわち、憲法上国民の納税義務と予算及び国費支出とは、形式、実質ともに、その法的根拠を異にし、全く別個なものであり、両者は直接的、具体的な関連性を有しない。

(3) 従つて、徴税自体に税法上固有の違法又は無効原因がある場合は格別、税法の規定に基づき適法に徴収された税金が、仮に憲法又は法律に違反する国家の行為のために費消される結果となつたとしても、それは、その予算の執行たる支出自体が違憲又は違法となるということはありうるとしても、租税の課税、徴収が違憲又は違法となるものではない。

(三) 本件に適用した前記各税法の関係各規定が、いずれも憲法の諸規定に違反するものでないことは明らかである。すなわち、

(1) 民主政治の下では、国民は国会におけるその代表者を通じて自ら国費を負担することが根本原則であつて、国民はその総意を反映する租税立法に基づいて自主的に納税の義務を負うものとされ(憲法三〇条)、その反面においてあらたに租税を課し又は現行の租税を変更するには法律又は法律の定める条件によることが必要とされているものであり(憲法八四条)、憲法の下では、租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準、徴税の手続はすべて法律に基づいて定められなければならないと同時に、法律に基づいて定めるところに委ねられていると解すべきである(最高裁昭和三〇年三月二三日大法廷判決・民集九巻三号三三六頁参照)。

(2) そして、その法的措置は立法府の裁量的判断にまつべきものであるが、ただ、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的措置が著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲としてその効力を否定することができるものと解すべきものである(最高裁昭和四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五八六頁参照)。

(3) しかるところ、本件に適用した前記各税法の関係各規定は、いずれも立法府の合理的な裁量の範囲内において定められたものであり、その裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であると解する余地は全く存しないもので、憲法の諸規定に違反するものでないことは明らかである。

(四) 被告において、原告が納得するよう軍備が憲法違反でないことを証明しなければならない義務を負担すべき法文上の規定はなく、また、右義務を負担すべき条理上あるいは契約等に基づく実体法上の根拠も存しない。」

【判旨】

一(第一次的請求について)原告の主張は、要するに、自衛隊が違憲であるとの前提に立ち、被告が自衛隊のために軍事費として税金を支出することも、右軍事費に使用することになる税金(昭和五四年度の場合全体の5.4パーセント)を徴収することも違憲であるから、これを原告から強制的に徴収した本件税務署長の処分は当然無効であり、原告には右相当分の納税義務がなく、被告は、法律上の原因なくして不当に利得したことになるというものである。しかしながら、租税の徴収と国費の支出との関係については、前提事実中二3(二)に被告が主張するとおりであつて、税務署長の処分が当然無効であるという原告の主張は、独自の見解に立脚するものでそれ自体失当というべきであり、その余の点につき判断するまでもなく第一次的請求は理由がない。

二(第二次的請求について)原告は、被告に対し、原告が納得するよう軍備が憲法に違反しないことの証明を求めるというのであるが、かかる請求は、法令の適用によつて解決し得る権利義務に関する当事者間の具体的紛争即ち法律上の争訟といえず、また右のような証明を求めて裁判所に出訴し得ることを認めた法律も存しないから、右請求は不適法のものである。

(島敏男 佐伯光信 小泉博嗣)

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